Blackmagic Design
それは自社の工場で製品を作ることを通して、常に学ぶことができるからです。日々自社工場で製品を作っていると、問題や障害に直面します。そしてそれを乗り越えることにより発見があり、成長があるのです。
私は製造業にイノベーションを起こしたいと思っています。90年代の日本の製造業は、非常に優秀でしたが、それだけではなくその成功体験からくる大きな自信を持っていました。 違う製品群に挑戦しよう、試行錯誤をしながら進んでいこうという考えがありました。
私は思うのですが、いい製造プロセスができれば、それによって自信がついて、新しいことに挑戦できます。製品開発でももっと攻めた姿勢を貫けます。だから我が社ではすべてのプロセスを統合しています。
サブスクリプションを全否定するわけではありませんが、クリエイティブな業界でのサブスクリプション、クラウドソフトウェアというのには私は反対です。
理由は2つあります。
ひとつは、それがユーザーを罠にかけるやり方になっているからです。
以前の環境が提供される保証がない。10年前のプロジェクトを使える保証がない
もうひとつの反対理由は、もっとビジネス的なものです。
クラウドソフトウェアにおいては...、アップデートがあってもなくても、それがどのようなものであっても、お金を払い続けざるを得ません。このようなビジネスカルチャーは今はとりあえず大きな差し障りはないかもしれませんが、長期的に見れば問題を孕んでいます。
かつてはソフトウェア会社は、新しいバージョンを買ってもらうために、あっと驚くような新機能を頑張って開発していました。そうしないとユーザーは古いバージョンで満足して、新しいバージョンにお金を払ってくれなかったからです。
これによって開発体制が安定しなかったという側面はある(のでサブスクに舵が切られた)
クラウドソフトウェアは、ソフトウェアを不動産に似たものにしてしまっています。昔はソフトウェアはIP(知的財産)ビジネスだったはずなのですが、もはやそうではありません。
健康的なユーザーの増やし方
よく冗談で言うのですが、我々の目標はお客さんがうっかり金銭的に成功してしまうように仕向けることです。もし安価でプロ向けの製品を提供できれば、ユーザーは知らず知らずのうちにプロフェッショナルな機能を学んでいきます。そしてある日、お金を得ることになって、「あら、うまくいってるじゃないか」となります。そうすればさらに我々の製品を買ってくれるでしょう。すると我々もさらに製品開発ができますし、彼らとの関係も良好に保つことができます。
これはソフトウェアビジネスで学生に無料開放したり安くしたりするのと目的は同じ
学生じゃない人向けにもできているのがすごい
...ソフトウェアを開放して、誰でも使える状態にしておきます。
他のソフトとの連携もきっちり取れるようにしておきます。いつでもべつのソフトに移れるという安心感があるので、ユーザーはプレッシャーを感じずにこのソフトを使うことができます。
...さらに良い製品を作ろうと頭を絞って努力しています。それによってまた新しいユーザーが増えていきます。
もしユーザーがダビンチ(引用者注:DaVinci Resolve)を使っているうちに、お金を得ることができるようになったら、ハードウェアコントロールパネルやキーボードやキャプチャカードなど、さまざまな製品を導入してシステムを拡張することになるでしょう。そこで我々はお金を得ることができるようになるのです。私はこちらの方が優れたビジネスメソッドだと思います。 最初の製品はキャプチャカードでした。コンピュータに挿して、高品質な映像を取り込むためのものです。きっかけとなったのはある気づきでした。友人がスキャナーを買ったら、Photoshopがついてきました。どうしてだろうと最初は思いました。本来は、Photoshopは出版業界で使われているもので、テレビ業界ではあまり使われていませんでした。テレビ業界では、Photoshopと似たような、Paintboxという別のシステムが使われていたのです。しかし考えてみたら、やってることは同じです。分野は違えど、出版業界で使われているツールをテレビ業界で使ってはいけないという理由はないはずです。
...当時、出版業界は驚くほど多彩なソフトウェアツールを用意していたのですが、それを見て私は、「どうしてこれをテレビ業界に活用できないのだろうか」と考えたのです。
しかし当時はテレビ業界はPhotoshopと同じようなツールを使うために、わざわざ高い専用コンピュータを購入していました。そこで私は思ったのです。テレビ業界の製品を変えるだけではなく、テレビ業界のビジネスのやり方も変える必要があるのだと。
当時の私がテレビ業界の問題だと思っていたのは、機材中心で物事が動いていることでした。デザインシステムに百万ドル(数億円)、編集機材に数十億円(数千万円)、という感じで、とにかく機材が高くてそれを中心に業界が回っていたのです。クリエイティブな業界であるべきなのに、そうではありませんでした。しかし会社が大きくなって気づいたのですが、これはテレビ業界だけの問題ではありませんでした
私は安価なキャプチャカードを作りました。どのMacにも挿し込めて、すぐに使えるやつです。まわりからは、Macで使うための製品を作るのはどうかしていると言われました。当時は90年代後半で、アップルはそれほど好調ではありませんでしたから。しかし当時もデザイナーが使っているのはWindowsではなくMacでした。だからMacに最適化したキャプチャカードを作ろうと思ったんです。
なぜキャプチャカードなのか?
Photoshopが使得るようになる?
当時、銀行に融資を頼みに行っても門前払いをされました。成功すると証明できないものに誰もお金を提供してはくれないのです。
でも当時は私も若かったので、彼らの考え方がまったく理解できませんでした。業界が間違っているのだから、それを正しい方向に変えればいいのだ、とすごくシンプルに考えていました。べつに大それたことを狙っていたわけではなく、問題の解決策を知っているのだから、それを実行するだけじゃないか、と。しかし当時私が出会った人々は、誰も融資はしてくれなかったし、誰も助けてはくれませんでした。
収益自体は最初から出ていました。コストを入れないで製品を作っていたら、すぐに死んでしまいますから。しかし最初の時期は、とにかく自由に使えるお金がありませんでした。
最初は失敗ばかりです。しかし失敗ばかりの壁の中のどこかに、きっと小さな成功の割れ目があります。最初のうちは、その割れ目を見つけられるように頑張るしかありません。
信用を得る
信用を得ること。受け入れられること。人々に自分たちのやろうとしていることを理解してもらうこと。こうしたことは、単に利益を得ることよりもずっと大変です。
人々の毎日の仕事に使われる製品を提供することで、人々から信用を得られるのです。
問題を解決する
我々はただそこにある一つひとつの問題を解決しようとしているだけです。最初はキャプチャカードでした。そしてモニタリングの問題に気付いて、それを解決しようとしました。DaVinci社を買収したときも、もっと多くの人がカラコレ(引用者注:Color correction)をするようになってほしいと思ったからでした。DaVinci社を買収した後も、DaVinci Resolveでカラコレをできるようなフッテージは普通の人には手に入りませんでした。安いビデオカメラでは、ダイナミックレンジが狭すぎて、クリエイティブな作業はできないからです。それがきっかけで我々のシネマカメラが生まれました。 計画を柔軟にする
通常、規模が大きくなればなるほど相手のやっていることを理解できなくなります。これは社会も同じです。ヘアドレッサーは炭坑夫の仕事を理解できないし、グラフィックデザイナーは会計士の仕事を理解できません。専門性があればあるほど、人は他の分野から遠ざかっていきます。
だから計画もできるだけ排除するようにしています。計画を立てると柔軟性がなくなるからです。製品を作るときの計画書も、1ページを超えることはありません。超えてはいけないのです。
何ページもある計画書を作る問題点というのは、計画書自体が製品になってしまうということです。
どういうこと?
我々はOEM関連でいろんな会社と付き合いがありますが、非常に凝った計画書を作ってくる会社に限って、必ず最終的に失敗します。計画書が複雑すぎて、実現できないのです。一見、紙の上では素晴らしく見えるものでも、複雑であれば必ずどこかに隠れたバグがあります。
やってみて、うまくいくかを判断して、結果に柔軟に対応する。
もちろんシステムはあります。システムがないと何もできませんから。しかしシステムに柔軟性がないとダメです。
システムはみんなをコントロールするためではなくサポートするためにあります。
常に今の上をいく
データやスプレッドシートには用はありません。マーケットリサーチもやりません。ただ人と話すだけです。これは考え方としてあまり一般的ではないと思います。でも人はスプレッドシートのマス目でもなければビッグデータの一部分でもありません。人間です。
ここでいうスプレットシートは、後半の文章を読むと「一度決めてしまったら見直されず変わらない基準」問いうような意味のようだ
近頃では人をすぐにデータにまとめたがります。政府も会社もデータで全てを決めようとします。しかし私はこれは間違っていると思います。スプレッドシートは人々を分断します。
人間はクリエイティブな生き物です。動物の中でクリエイティブなのは人間だけです。まあ、猿は小枝を道具として使えますが、これはクリエイティビティとは別物でしょう。小枝や猿をマネタイズすることはできません(サーカスは別ですが)。とにかく我々を他の動物と区別するものはクリエイティビティなのだから、それを育てることに専念するべきです。(略)第一、そうした方が楽しいですし。
世の中のCEOはこうしたことをあまり知らないように見えます。ただ業界のルールを知っているだけで、新しいものを何かクリエイトするということがありません。ルールを疑うと、爪弾きにされます。しかしルールを疑わないと、新しいものは何も生まれません。すべてが停滞したままです。 理想的なビジネスとは、1人では達成できないことを多くの人で達成し、たくさんの脳味噌を集めて、個人の能力を超えたことを実現するというところにあるはずです。それが本来のビジネスの姿です。
しかし土地中心の原始的な経済に陥る可能性はいつでも潜んでいます。つまり土地を所有して、土地から得られる地代で稼ぐというやり方です。そこへ引き戻そうとする力はとても強く存在します。
その辺を走っている電車が100年前と同じスピードで走っているのはなぜだと思いますか? やろうと思えばもっと速く走らせることもできるのに、誰もそんな思考にならないからです。鉄道会社は現状維持のことしか考えていません。今あるシステムをいかに管理するかを考えて、必要な利益を得ようとします。
このあたりはきっとそんなことはないのだろうが、一度安定したビジネスモデルをドラスティックに変える圧力は基本的に存在しないので構造的にこうなる
ただ持っている列車と路線を運用して、誰の非難も受けないように粛々と仕事をしているだけです。クリエイティブになろう、お客さんをもっと喜ばせよう、という考え方はこれっぽっちもないのです。数字を見て、それに従って動いているだけです。
これが今の世の中です。誰のせいでもありません。(略)システムの問題なのです。我々が使う道具、我々が一緒に問題に取り組む仕組み、我々がお互いに意思疎通をする方法、そういったものが崩壊してしまっています。もっと洗練された、深い考え方をしなくてはいけません。今あるシステムに頼り切って、楽をしてそこから奪い取ろうということばかりを考えていても、最終的に得られるものはたかが知れています。しかし我々が今やっていることがそうなのです。過去の歴史を燃やして、その燃料から生まれるものを消費しているだけで、何も新しいものを作り出そうとしていません。難しいことですが、クリエイティブになって、新しい仕組みを作り出すことを考えないといけません。
スタートアップの会社はよく「ディスラプター」(業界の破壊者)と表現されます。しかし実のところ、私はこう言われていい気はしません。私はクリエイティブでありたいと思っています。クリエイティブな人々の問題を解決したい、と。私は何も破壊していません。私は何とか生き残って、人々の問題を解決したいだけなのです
私が破壊しているとすれば、お金の支配を破壊しているだけですが、それはお金がただの道具であり、主人ではないからです。